
2019.06.22不自然な冬のイチゴ(後)
◇じいちゃんの無農薬イチゴ
こんにちは、SNIオーガニック菜園部事務局の水島です。
前回に続き、職場のある北杜市大泉町で無農薬無化学肥料のイチゴ栽培に取り組む北川信(きたがわ・まこと)さんの話題です。
北川さんがイチゴを手がけ始めたのは、今はもう成長した孫が幼い頃、イチゴをことのほか喜んだことがきっかけ。「じいちゃんが作ったイチゴは無農薬なんだぞって食べさせたくてね」。孫が「ここにもあるよ、あそこにもあるよ」と喜んでイチゴ狩りをするのを見るのが楽しみでした。
その上、技術やエネルギーを駆使し、冬に出回るイチゴへの疑問もありました。
「なんでイチゴを冬に食わなきゃいけないんだろうってね」
◇不自然な冬のイチゴ
イチゴは冬を経験して結実する果物です。
そのため、冬に収穫するためにはそれより前に冷蔵庫のような保冷設備の中に入れて、イチゴに「冬を経験させる」と言われます。
その後、春が来たと感じさせるために暖房施設・温室などで暖めます。
日が長くないと花芽分化しにくいため、煌々(こうこう)と照明で照らす工程も。
エネルギーを大量に使用し、いわば工業的に、不自然な形で育てられているのが冬のイチゴです。
◇強い品種を選ぶ
北川さんが育てている品種は主に「宝交(ほうこう)」、それに静岡などで栽培される「紅ほっぺ」です。
このうち、「宝交」は50-60年以上前からある品種です。一般的にイチゴは病気や虫に弱く、消毒を繰り返すことが多いとされますが、「宝交は病気に強い」(北川さん)とのこと。
北川さんによると、品種改良の結果、現在出回っているイチゴは、病気や虫に弱い面があるとのことで、昔からある、比較的古い品種を選ぶことで、無農薬に耐えうるようです。
もちろん手はかかります。比較的、虫に強いとはいっても、途中で喰われるものももちろんあります。「宝交」の果実は比較的柔らかいため、雨対策としてビニルをかけます。また、ビニルハウスならば入り口の管理をしっかりしておけば動物の被害を防ぐことができますが、路地栽培の場合はキジなどの鳥、ハクビシンなどの獣の対策もしなくてはいけません。「手がかかってもう嫌になっちゃうよ」と北川さんは苦笑いします。
写真:北川さんがイチゴを路地栽培する畑
◇経済と密接につながる農業
お話を伺っていると、経済と密接につながっている現代の農業のすがたがくっきりと浮かび上がってきました。
冬のイチゴは高く売れるから、冬に収穫できる方向へ技術が進んできた。
保冷施設で「冬」を経験させ、再び暖めて結実させるため、温度変化に敏感な方向へ品種改良されてきた。
長距離を輸送し、大消費地へ届ける必要性から、一定の固さをもった品種に改良されてきた。
自然をねじ曲げる方向に、なぜ「進化」してきたかといえば、それを求める消費者がいるからです。
◇温暖化につながる欲望
多くの野菜や果物が世界中から運ばれ、また技術の進化によって、1年中、スーパーマーケットに並ぶようになり、自然のサイクルで育てた場合の本来の「旬」がわかりにくくなりました。イチゴも品種改良や海外からの輸入によって、一年中、ケーキ店ではイチゴケーキを買うことができます。
しかし、消費者が望む方向にねじ曲げられた形で野菜や果物が栽培されれば、そこには膨大なエネルギーが必要となり、地球温暖化につながります。
どうしても冬のイチゴが必要でしょうか?
6月、標高700~1300メートル付近に住む同僚たちが家庭菜園で育てるイチゴの収穫の知らせが聞こえ始め、北川さんのイチゴも少しずつ色づいてきました。
昨年夏の植え付けから、実にほぼ1年がかり。
でも、これが自然のスピードです。
経済は需要のあるところに供給されるように動きます。つまりいわば消費者の選択、換言すれば、人間の心が経済の動きも作ります。だから一人一人の選択が大切です。
自然のリズムを知り、人間の欲望を叶えるためにどれだけのエネルギーが使われるかを知り、その上で、地球にやさしい日々の小さな選択を積み上げていきたいと思います。
写真:収穫を控えた北川さんのイチゴ。前夜の激しい雨で周囲の土が飛び跳ねている
(SNIオーガニック菜園部事務局 水島育子)