『仏教タイムス』に原発問題の原稿が掲載される

ニュースリリース

2011.07.15

仏教界の情報を紹介する『週刊仏教タイムス』(仏教タイムス社発行、ブランケット判6頁)7月7日号に生長の家の原発問題に対する考え方を書いた原稿が掲載されました(後掲)。
 この原稿は、同紙編集部から生長の家への原稿依頼を受け、山岡睦治・出版・広報部長が執筆したもので、同紙の1面の「原発が問う  宗教と未来」シリーズの第5回目。ちなみに、4回までの執筆者とタイトルは以下の通り。

<1>中嶌哲演(福井県・真言宗御室派明通寺住職/原子力行政を問い直す宗教者の会)
「警告発することも宗教活動 地方・被曝労働・子ども3つの差別構造が」
<2>梅森寛誠(宮城県・日蓮宗法運寺住職/原子力行政を問い直す宗教者の会世話人)
「乳幼児を優先避難させたか 弱者のいのち危険に曝す事態に」
<3>矢嶋龍彦(埼玉工業大学工学部生命環境化学科教授)
「原発老朽化時の対応に不安が 『大気圧プラズマ』を次世代エネルギーに」
<4>大河内秀人(東京・浄土宗寿光院住職/原子力行政を問い直す宗教者の会世話人)
「苦の側から深く考えよう 社会のあり方は変えられる」
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原発事故が問う 未来と宗教 シリーズ<5>

 自然エネルギー立国へ 宗教に欲望制御の役割あり

  山岡 睦治  宗教法人「生長の家」参議 出版・広報部長

今なお、放射能漏れ制御の困難さを思い知らされている東京電力福島第1原子力発電所の事故が問う「未来と宗教」とは何か。結論から言えば、未来のために、今こそ原発依存の日本から“自然エネルギー立国”に転換することを決断すべきである。そして、生長の家は、いずれの宗教の教えにもある、人間の欲望を押さえる役割を果たしながら、自然と人間とが調和した社会の実現を目指していきたいと考えるものである。
では、原子力発電についてどのように考えるのか。谷口雅宣・生長の家総裁のブログ「小閑雑感」の2006年6月24日の記事「“原子力立国”でいいのか」において、次の三点から、当時経産省資源エネルギー庁がまとめた、「原子力立国計画」に賛成できない考えを明確にしている。1点目は、原子力発電が地球温暖化の反省から生まれた「循環型社会の実現」という目標と合致しないこと、2点目は、世代間倫理を尊重する立場から、3点目は自然エネルギー利用の分散型社会実現の観点からの反対である。
まず、原発に使われる核燃料は、循環型とは言えない。これまで全国の原発から使用済み核燃料が毎年約1千㌧出ているが、一時保管している六ヶ所村の再処理工場の貯蔵プール、原子炉建屋内に設置された貯蔵プールは、あと数年で満杯になるという。しかも、最終貯蔵施設は未だ1カ所も決まっていない行き詰まり状態で、原発に依存する社会は、到底循環型にはなり得ない。
世代間倫理についてはどうだろう。仮に、今すぐ原発を止めても、先のプール内にある約1万6千㌧の使用済み核燃料を人間に害を与えない場所に貯蔵しなければならない。その必要年月は10万年とも言われている。核廃棄物処理のツケを1000世紀に亘る世代に回すことになるのだから、すでに世代間倫理に反している。が、このような原発の持つ問題が、周辺住民の身の危険をも伴って国民の前に曝け出された時に、原発依存から脱する決断をすることが、世代間倫理に適う最低限の選択であろう。
さらに、自然エネルギー利用の分散型社会実現の観点からすれば、原発は大規模・集中型だから相容れない。問題となっている電力業界が発電と送電の事業を独占している構造を改革して、発送電分離が全国で実現できれば、地域に合った太陽光や風力などの自然エネルギーの活用を本格的に推進できることになる。
当教団では、2001年に環境マネジメントシステムのISO14001の認証を取得し、各種エネルギー消費量を削減する一方、自然エネルギーの利用については、太陽光発電装置の導入を積極的に推進してきた。その結果、全国72事業所、会員863人が設置しているパネルの発電容量の総計は5253.45kWに上っている。
さらに、2013年春には、本部事務所を現在の東京・原宿から山梨県北杜市の八ヶ岳南麓の「森の中のオフィス」に移転させる予定だ。この計画では、原発事故処理が長期化することを受けて、太陽光やバイオマス発電により、電力の自給を視野に入れて調整をしている。このオフィスが完成すれば、分散型の自然エネルギー社会のひとつのモデルになるだろう。
しかし、分散型で自然エネルギー利用を大々的に進め、既存の原発に匹敵する発電量を確保すればそれでよいのかと言えば、答えは“ノー”である。それでは、現代社会が突き進んできた自然環境の破壊と欲望優先の生き方をさらに助長することになりかねないからだ。
宗教はもともと人間の欲望を押さえて、すでに与えられている天地の恵みに感謝する生き方を説いてきた。しからば宗教には、自然エネルギー立国に向けて、人間の欲望を制御し、感謝の生活にこそ人間の幸福があることを拡大させる重要な役割があると思う。
私共は、今、仏の四無量心(慈悲喜捨の心)を人間にだけでなく、自然界にも行ずることを実践しつつある。森の中のオフィスへの移転も、人間の物資的欲望を常に喚起し続ける“大都会”を離れることで、執着を放つ四無量心の「捨徳」を行ずる意味も含んでいる。
森の中のオフィスで、自然と人間が調和し、低炭素でありながら、心明るい生活を、それこそ八ヶ岳の豊かな森から直接学びたいと思っている。それが原発事故が問う未来についての、生長の家からの実践的な回答になるだろう。

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やまおか・むつじ
1955年生まれ。地球環境保全に協働して取り組む新組織「宗教・研究者エコイニシアティブ」の幹事を務める。